夭逝の天才村山槐多の謎
2021-10-01


□引き裂かれた絵の真相 夭逝の天才村山槐多の謎(村松和明 2013)                   

 日本のフォーヴとも言える造形と、赤のガランスの多用で、高村光太郎に「火だるま槐多」と唄われた村山槐多の大作「日曜の遊び」の謎に挑んだ美術評論。
 岡崎市美術館には、「日曜の遊び」と題される巨大な水彩画(大作)があり、マネの草上の食事やセザンヌの水浴などを思わせる男女が描かれている。
 この絵には、村山槐多の従兄の洋行帰りの画家・詩人の山本鼎が描いた下絵があるのだが、その「下絵」を拡大した「大作」の作者については、山本本人なのか、従弟の村山なのか判然としていなかった。
 美術評論家である著者は、何度も岡崎市美術館を訪ねて綿密に「大作」を調査し、画材等の科学的分析とあわせて、山本の「下絵」をもとに、村山が「大作」を描いたことを明らかにする。
 決め手となったのは画力で、「下絵」には東京美術学校で学んだ山本のアカデミックな描写力が反映されているのに対し、「大作」は、人体のデッサン等で劣っていた。著者は、「大作」で、専門的な美術教育を受けなかった自身の画力の欠如を痛感した村山が、これ以降、独自のアニマニズム絵画を発展させたと推測している。
 現代の美術市場では、絵の上手な山本鼎の絵よりは、下手な村山槐多の方がはるかに値が高い。上手けりゃ良いという訳でもないのが絵の難しい処である。
 

禺画像]


[芸術]
[読書]

コメント(全0件)
コメントをする


記事を書く
powered by ASAHIネット