長谷川利行
2020-10-17


□長谷川利行の絵-芸術家と時代(大塚信一 2020)

 惹句に「日本のゴッホ”長谷川利行の本質に迫る、画期的評伝」とあるが、僕は長谷川利行の画風や生き方がゴッホに似ているとは思わない。あえて似ている西洋の画家を探せば、酒と下町の景色をこよなく愛したことからユトリロなんだと思う。もっとも一般には、日本のユトリロは佐伯祐三ということになっている。
 本書は、酒飲みで放浪の画家長谷川というステロタイプなイメージに、世界の絵の潮流の中で日本の美術界を見ていた、知的な芸術家という側面を加えたいのだと思うけど、なに、知能指数の高いのんだくれは、昔も今も山ほどいる訳で、筆者が苦労して集めたエピソードの多くも、才能はあったが、正規の美術教育を受けず画壇の主流に浮上することもなく、大戦前夜の三河島の路上で行き倒れた、愛すべきセンチメントの画家という定評を覆すには足りなかった。
 つまり、長谷川は、琴線に触れる名画を残したが、絶対にお隣にはなりたくない類の人間で、そういう意味ではまさに日本のゴッホであったのかもしれない。
 僕としては、むしろ、画家の評伝なのだから、長谷川の絵の日本美術史上の位置づけ、フォービズムなのか、素朴派またはアール・ブリュット(生の芸術)として再評価すべきなのか、などを考察してほしかった。結局、画家は絵なのだから。


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PS 全体に文章が硬くて読みにくいので著者の履歴を調べたら、岩波書店の元社長だった。社長さんの文章なのだ。どうして岩波から出版しなかったんだろう。

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