画家のジレンマ
2017-10-29


□ヘンな日本美術史(山口 晃)

 鳥羽僧正から明治の高橋由一まで、日本の絵の歴史を画家の視点から、つまり描き方の技術論から面白く解説した美術史。今大人気の若冲も、昔から人気の応挙、雪舟も勿論出てくるが、何故か最大のビッグネームの北斎については、ベンチマーク的に名前は出て来ても、作品に即した解説はないのが、ヘンと言えば変である。
 作品の解説で繰り返し言及されるのが、日本人が昔から持っていた絵画空間の特異性、西洋から、透視図法と陰影描写に基づく写実的なデッサンが入ってくる前の日本絵画が持つ独特の空間構成の素晴らしさである。
 しかし、西洋的なデッサンを知ってしまった明治以降の日本人はもう戻れない、そのジレンマを、自転車に乗ることを覚えてしまった子供に例えて、何度も繰り返し書いているのは、画家である著者にとって、目下の一番の課題であるからであろう。
 大変面白く読めたが、アマチュア画家である僕としては、共感出来なかった。
 何故なら、僕は、未だに自転車に乗れない(遠近法に基づくデッサンをマスターしていない)子供なので、意識しないと西洋風の写実になってしまうという著者の悩みは贅沢に聞こえるからである。
 つまり、この本は、僕にとっては、所謂デッサンが出来ないことを悔やむ必要は無く、むしろ、写実的な制約から本質的に解放された人間(要するに下手糞)として、好き勝手に描けばよろしいという自信を与えてくれる本なのであった。

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